宮崎大学
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ウイルス感染症と戦うトライアスリート教授 岡林 環樹(おかばやし たまき)さん

掲載日:2021年12月6日
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岡林 環樹(おかばやし たまき)さん

産業動物防疫リサーチセンター教授 /副センター長

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 兵庫県出身、1971年生まれ
 中学・高校まではサッカー部に所属し、大学ではアメリカンフットボール部に所属。大学卒業後も社会人チームに所属し、アメリカンフットボールを続ける。
 40歳を機に新たな挑戦をしようとトライアスロンを始める。鉄人レースと言われ、スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195kmを走破する「アイアンマン・ジャパン北海道(2015年)」および「アイアンマン台湾(2017年)」に出場した実績を持つ。
 トライアスロンのトレーニングの一環として、週2回のペースで仕事前に1時間弱の水泳を行い、隙間時間を作り出してランニングにも取り組む。フルマラソンのベストタイムは  「第33回青島太平洋マラソン(2019年)」の3時間11分。
 専門分野はウイルス学で、節足動物媒介性ウイルス(チクングニヤ、SFTS)、牛呼吸器症候群ウイルス、豚流行性下痢症ウイルスなどを中心に研究を進めている。
 2015年4月に宮崎大学農学部獣医学科獣医微生物学研究室准教授として着任。20194月に同研究室教授。20204月からは産業動物防疫リサーチセンターの副センター長も務める。
 2021年1月に、医学部・農学部・工学部・産業動物防疫リサーチセンターの連携による研究成果として発表された「ブルーベリー茎・葉抽出成分の新型コロナウイルスの不活性化効果」は、岡林さんもメンバーの一人。その研究は高い評価を受け、宮崎大学「ブルーベリー茎葉抽出成分の新型コロナウイルス不活化効果」研究チーム(代表:フロンティア科学総合研究センター・森下和広特別教授)として、第57回宮崎日日新聞賞(科学賞)を受賞した。

Q.鉄人と揶揄されることがあるようですが。

 それは言い過ぎですね(笑)。
 趣味でトライアスロンを9年前から始めました。トライアスロンは文字通り3種目(スイム・バイク・ラン)があり、バランス良く身体を鍛える必要がある過酷な競技ですので、最初は短い距離のレースに出ることから始めました。当然のことながら、最初から体力があったわけではなく、時間をかけて少しずつ体力を付けてきました。
 始めた当初は戸惑いと屈辱の連続でした。それまでは、プールでしか泳いだことがなく、プールだったら水も透明で底にラインが書かれているのでまっすぐ泳ぐことができますが、いざ海をクロールで泳いでみると、自分がどこに進んでいるのか全くわからなくなるんですね(笑)。波や風による抵抗もありますし、海を泳ぐことの厳しさを痛感しました。  
 その後も大変です。スイムで重たくなった身体の状態でバイク。当初はバイクで体力を回復させることができるかと思っていましたが、このバイクも辛い。バイクが終わる頃には太ももがパンパンで降りた瞬間は上手く歩くこともできません。それでも、これからフルマラソンだというのに、バイクが終わったときはホッとします。
 最後のランでは、いかに筋肉への負担を分散させるかをイメージしながら走っています。「バイクで使ってない筋肉はどこか?」「痛みが出そうなところはないか?」「痛みが出ないようにするための荷重はこれでいいのか?」など、自分の体と相談しながら走っている感じですね。本当の最後は、ゴール後の家族や仲間との再会、そして、レース後のビールを想像しながら走っています。


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写真:全日本トライアスロン宮古島大会(2017年開催)

Q.もう一度アイアンマンレースを完走したい

 細く長く続けることで、スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195kmを走破するロングディスタンスというカテゴリーに属する「アイアンマン・ジャパン北海道(2015年開催)」と「アイアンマン台湾(2017年開催)」に挑戦することができました。そのような「アイアンマン」のレースは、朝7時頃にスタートして、一般的な制限時間は16時間となっているので、夜の10時までにはゴールしなければなりません。
 北海道での私の場合は合計14時間くらいかけてゴールしたので夜8時頃です。優勝選手は7時間台でゴールするわけですから、とても鉄人と呼ばれるには恐れ多いです。2022年には50歳になっていますが、もう一度「アイアンマン」レースでの完走をすることが目標です。

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写真:アイアンマン・ジャパン北海道(2015年開催)ゴール時の様子

Q.トライアスロンがどのように研究面に役立っていますか。

 研究は体力が求められることもあるので、トライアスロンを通じて身体を鍛えることは研究面でも役にたっていると思っています。また、トライアスロンのトレーニングは、複数の競技をバランスよく、積み重ねていくことが大事だと思っています。平日は長いトレーニング時間が確保できないので、週末は少し長い距離の練習に取り組むようにはしています。しかし、実際には仕事、家庭、サボりたい気持ちも出ています。そのために、どのようにして時間や気持ちをマネージメントしていくか、それも含めてトライアスロンから学んだことで、様々な場面で役に立っていると思います。

Q.岡林さんが所属する 産業動物防疫リサーチセンター(CADIC)とは。

 宮崎県では、2010年に発生した口蹄疫により、約7万頭の牛と約22万頭の豚が殺処分されるという未曾有の惨事に見舞われました。高病原性鳥インフルエンザによる被害も度々発生しています。このような経験から、2011年11月に、日本で唯一の産業動物感染症を専門に扱う研究センターとして産業動物防疫リサーチセンターは開設されました。ここでは、アジアにおける産業動物感染症の研究拠点として最先端の研究を進めるとともに、日本人のみならず海外からも多数の学生や研究者を受け入れていて、人材育成にも大きく貢献しています。

Q.どのような研究をしていますか。

 家畜の感染症としては、「ウシの風邪」といわれる「牛呼吸病症候群」に関する研究に取り組んでいます。ヒトの風邪と同じくウイルスや細菌など複数の病原体の感染と免疫のバランスによって発生し、ウシ産業界に大きな被害を及ぼします。我々はウシの呼吸器粘膜細胞において、ウイルスの先行感染が細菌の感染を増強する分子機序を明らかにし、炎症誘導や重症化に繋がる可能性を報告しています。今後は、粘膜細胞における防御機能がないのかを明らかにしようと思っています。
 また、動物だけでなく、ヒトのウイルスに対する研究も行なっています。数年前から西日本を中心に「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」が流行しています。発症した人、もしくは診断された方の20%が亡くなる感染症で、マダニを介してうつります。宮崎での発生数は日本で一番多く、野生動物にも感染が拡大していることも明らかにしました。また、ネコやイヌなどの伴侶動物への感染事例や、伴侶動物から人への感染事例を明らかにしています。山や野原でマダニに注意するだけではなく、伴侶動物からの感染も注意が必要な感染症です。
 2021年度から、医学部附属病院と当センターで、新型コロナウイルス、SFTSなどの病原体レポジトリ(集積・管理)の事業もスタートしました。ウイルスが人と動物という宿主域を超えるメカニズムの解明など、一層、連携した取り組みが重要になると感じています。

20211201_hito_banner_okabayashi_0402.jpg写真:実験風景(BSL3に設置された監視カメラによる撮影)

Q.獣医学科には、ヒトのウイルス研究について取り組む分野があるのですね。

 世界のヒトに流行する新興感染症のうち、約75%は動物由来だといわれています。今回の新型コロナウイルス感染症COVID-19は、コウモリに起源しているという報告があります。1970年以降、エボラウイルス病やHIV・エイズが発生した頃から感染症の重要性が注目され始めました。毎年、5つほどは新しいヒトの感染症が増えており、そのうち3つは動物由来なのです。
 獣医学科は動物だけを研究しているというイメージがあるかと思いますが、獣医学には人獣共通感染症(ズーノーシス)という分野があります。私は学生時代に獣医公衆衛生学の研究室に所属し、ダニからうつる感染症、野生動物からヒトへ拡大する感染症について研究していました。札幌医科大学医学部では、SARS(重症急性呼吸器症候群)についても研究しました。今まさに、この人獣共通感染症を研究する重要性は高まっていると言えます。

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写真:2016年ベルギー・アントワープ熱帯医学研究所でのチクングニヤウイルス診断キット評価をしている様子。左が岡林さん

Q.新型コロナウイルス不活性化の研究にも関わったようですが。

 新型コロナウイルスに関しては、日本で感染が確認されてすぐの昨年2月頃に、当センターでも調査・研究が必要ではないか、という産業動物防疫リサーチセンター長からの提案があり、すぐに診断システムを導入しました。さらに研究用ウイルスも入手し、研究できる体制を整えました。
 ブルーベリーの茎・葉などの機能性については、既に学内で基礎研究が行われていました。新型コロナウイルスにも効果があるのではないのかと、速やかに研究チームがつくられ、ブルーベリー茎・葉から抽出した成分に、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果を認めることができました。農学部でブルーベリーを栽培、工学部で精製し成分を抽出、医学部で効果を調査し、獣医学科と産業動物防疫リサーチセンターでは、ウイルス感染実験を担当しました。さまざまな学部・センターで連携できること、日本で唯一、大学院 医学獣医学総合研究科が設置されていることも、宮崎大学の強みだと思います。

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写真:共同研究による成果を生かして開発されたのど飴の贈呈式にて(左が岡林さん)

Q.高校生へのメッセージがあればお願いします。

 宮崎大学がある宮崎市では、2021年10月にもトライアスロンの日本選手権が開催されたほど恵まれた環境で、大会会場となった一ツ葉有料道路周辺は道路中央にフェニックスが植えてあり、澄み渡る青い空とのコラボレーションは、まさに南国リゾートそのものです。
 県外から来るトライアスロン仲間や研究者からは、必ず羨ましがられます。
 このような環境だからこそ、常に心をフレッシュな状態に保ちながら学業や研究に打ち込むことができるのも宮崎大学の強みだと思います。
獣医学科の入学定員は30人と狭き門ではありますが、入学後は勉強だけではなく、宮崎のめぐまれた環境のもとで、様々なアウトドアスポーツに打ち込んでいる学生が多いです。また、全国では珍しい馬術部や気球部があるなど、サークル活動などを通して仲間を沢山作ることができる環境です。
 この記事を見て宮崎大学の受験を決めたという学生さんに会える日が来ることを楽しみにしています。

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写真:トライアスロン日本選手権の会場となった一つ葉有料道路(2021年撮影)

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